教材案「法とは何か」

授業の解説

□ はじめに
 法教育とは何かを一般の皆さんに説明するとき、最初に口に出すのは、「法律の条文であるとか、こうしなければならないと法律で決まっているというようなことを教えるものではない」ということです。近年、「法教育」という言葉を様々な方が、様々な形で用いているので、このように断言してしまうと異論が出る可能性もありますが、法教育の元々の考え方というのは、そういうものだと理解しています。
 そうすると、法律を教えるわけではないのに、「法」教育とはどういうことなのか、それはそれでわかりにくいわけですね。「世の中には正解が一つではない問題がある」「自分も他人も大切にする」ということだという説明も目にしますが、それがなぜ「法」教育なのか、きっと一般の方には、きっとよく分からない。あまりにわかりにくいので、「法教育」という名前を変えた方が良いのではないかという議論も目にします。
 個人的には、別に名前が変わっても、子どもたちの将来に役立つのであれば、それはそれでいいと思っているんですけど、一つ立ち止まって、「法」って何だろうというところを考えてみようというのが、今回の教材です。

□ 「法律」の存在意義
 一般的に言われる「法」の印象は、権利を守るものというよりも、自由を制限するものというほうが強いのかもしれません。取引をしたり、事業を始めたりなど、誰もが自由にやれれば良いのに、法律で、あれこれと手続を定めたりしているわけですね。典型的には道路交通法なんて規制ばかりの法律です。
 ただ、翻って、法律が全くなかったらどうなるのか。刑法がなくなったら犯罪が蔓延してしまうという分かりやすい話はさておき、日頃、私たちが面倒だなぁと思っている行政手続を定める法律や、先ほど挙げた規制だらけの道路交通法を考えてみて下さい。つまり、誰もが自由気ままに仕事をして、思った通りに振る舞うということです。一見すると自由に思えるかもしれませんが、例えば、建築のことを十分に知らない人が「とりあえずやってみた」と言って、ビルを建て始めたらどういうことになるでしょうか。ビルは建つかもしれませんが、「やってみた」程度の知識で建ったビルは、ちょっとした地震で倒壊するかもしれません。その場合、どれだけの生命や財産が失われるか、想像もつきません。道路交通法にしても、それが失われれ、自分が好きなように走行する人ばかりになれば、交通事故は絶えないうえ、事故が起こった場合の責任の所在も明確にならないでしょう(規制がない以上、誰もが自由に運転して良いのだから、誰も責任を負う必要はない…などという世界が想像できるでしょうか)。
 このように考えていくと、一見面倒なように見える法律も、それが存在しない場合、より多くの利益が侵害される可能性があるという考え方のもとに成り立っていることがわかります。(但し、法律の中でも、無駄な手続や法令もたくさんあると思っているので、それを廃止するかとか、変更するかということは、普通に議論されて良いことです。)

□ 個人が尊重されるということ
 もともと、個人は個人として尊重され、何を考えて、どのように行動するかは自由です。また、その個人の個性、つまり容姿や体格はもちろんのこと、考え方や趣味・嗜好に至るまで、全て違っていていいし、むしろそれが普通です(最近の世の中は、「違っていていい」という考え方が軽んじられつつあるように思えてなりません。それを、とても心配しています)。
 とはいえ、複数人が一堂に集まれば、両立できない自由と自由がぶつかる可能性がありますし、人数が増えれば増えるほど、その可能性が高まります。そうすると、自由と自由がぶつかって争いになるわけですが、かつては力の優る側が一方的に自由を獲得し、敗れた側は一切の自由を奪われていたわけです(それどころか命を奪われるパターンが一番多かったのではないかと)。そのような凄惨な事態にならないよう、人は、「対立」を受け入れて、話し合いにより「合意」することを学び(これが中学校公民で指導される「対立と合意」です)、人が増えて社会となり、個々の合意では間に合わなくなったときに生み出されたのが「法」です。このように、できるだけ多くの個人(少数者も含めて)が尊重されるような仕組みを模索した結果、「法」が生まれたのだと私は理解しています。つまり、「法」は、個人が尊重される社会を実現するための仕組みであり、同時に、個人の自由と自由が対立したときに、それを調整するためのものだと考えていただけるといいのかなと思います。
 だからこそ、法教育においては、自分の意見と相手の意見をともに尊重すべきということを伝えようとするわけですし、その意見が対立した場合における調整の方法(ルールづくりや、理性的な議論の手法など)をテーマとして扱ったりするわけです。こんなところを理解してもらえれば、「法教育」という名称も、決してわかりにくいというわけではなく、ちゃんと理にかなっていると、分かってもらえるんじゃないかなぁ…と期待しているんですけどね。とはいえ、大切なのは、やっぱり、名称ではなくて中身なので、「こういうことを育む教育って大事なんだなぁ」と、何となく、そして少しでも思ってもらえれば、私としては、それだけで、とても嬉しいです(笑)。

□ この教材が目指すもの
 いろいろ書きましたが、例えば、小学生の低学年の児童に、こういう難しいことを文章で知ってもらう必要なんてないんです。ただ、肌感覚として、「皆それぞれ大切な存在なんだ」「自分の都合のいい意見ばかり言ってちゃダメだなぁ」ということがわかってくれれば、それは、発達段階に応じた法教育としては大成功です。そして、皆それぞれを尊重しながら、解決するためのツールとして、一生懸命ルールを考えることができたなら、「法」を理解してもらいたいというミッションはクリアだと思います。
 なお、「法」とはできあがったルールのことを言うのではなく、その過程も含めて「法」と考えるべきです。そのことは、別の教材にてご紹介したいと思います。

指導案

 1限50分を想定して、各段階の時間を設定していますが、全体で50分だと、児童に考えてもらう時間がほとんど取れないように思われます。そのため、それぞれの段階で倍の時間をとり、児童各自がワークシートに向かい、悩み考えてもらう時間を確保するのが理想だと思います。

→ ワークシートは、こちら

段階学習活動指導上の留意点
導入
【5分】
○世の中にどんなルールがあるかを自由に挙げてもらう。
○そのルールが何のためにあるのかを考えてもらうのが、今回の授業であることを説明する。
★「法」って何だろうという興味を持たせる導入であれば、何でも良いと思う(弁護士の立場であれば、直球で「僕たちは、法律家って言われるけど、そもそも法って何だろう?」と呼びかけてしまうところ)。
展開(1)
【20分】
○ものごとを決める時に、何を重視すべきかを児童に考えてもらう。

【ワークシート①を配付】
→ワークシートにあるプレイルームの内容を最初に確認。

○質問1
・自分1人だけのときは?






○質問2
・3人が来て、対立が発生した場合の決定方法を考える。

①じゃんけん


②腕相撲


③言葉の圧力




④話し合い













⑤不公平な多数決









○質問3
・最初に遊ぶ2人を決める場合に、気をつけること










★自分1人の場合には、何をすることも自由。他人のことを気にする必要はない。
★「他の人が来たときのために、配慮する」という児童がいるかもしれない。それはそれで、他者との繋がりを理解しているという意味では理想的な回答なので、誉めてあげたい。


★一人ひとりが尊重される、公平な決め方とは何かを、事例と共に体感してほしい。

★3人くらいの人数であれば、最も公平な決定方法と言える→○

★腕力の大小で常に同じように勝負が決まってしまうので、公平とは言えない→×

★声の大きさにより、Cさんが言い返せないほどの圧力を感じているということは、その意思が尊重されず、ないがしろにされていると言わざるを得ない。→×

★今日は譲ってもらうが、明日は先に…と順番が考慮されているため公平だと言え、また、Cさんもこれに同意しており、意思確認も行われているので概ね問題ない→○
★もっとも、翌日、プレイルームを使うのがこの3人だけとは限らないので、公平とは言えないのではないかという意見が出るかもしれない。それはそれで、よく考えられた上での回答なので、まちがいではないと説明してあげてほしい。法律家の目線では、この場合、AさんとBさんが、そのことを知って、Cさんを騙そうとしていない限りは、一応、公平であり、問題ないという解釈を取ることになるだろう。

★多数決であるとはいえ、この聞き方をすれば、Cさんが必ず少数になるので、全く公平性に欠ける。→×
★本教材では扱わないが、多数決が優れた決定方法なのかについては、疑問の余地が多いにある。本教材は、小学校低学年~中学年が対象と考えているので、「多数決だけど、絶対おかしい」場合があることに、気付いてもらえるだけで良いと思う。


★「個人の尊重」という観点から、「3人それぞれが尊重される、公平な決め方」が重要であることを伝えたい。
★「平等にチャンスが与えられているか」と板書しワークシートに記入。上記の趣旨について説明する。
展開(2)
【20分】
【グループに分かれる。各班に、ワークシート②を、配布する。】

→ワークシートに書かれている設例を説明




○グループに分かれ、自由に議論し、ルールを作る。












○各グループで考えたルールを発表してもらう。



★20人になると、3人だったときに使えた決定方法を使うことは難しい。つまり、来てから決定するのでは不都合があるため、予めルールを決めておく必要がある。そのことを、まず児童に伝えて理解してもらう。

★展開(1)と同様、一人ひとりの意思を尊重しつつ、公平に決定される、つまり「平等にチャンスが与えられる」ようなルールであることが重要。そのことを展開(1)のまとめとして、教師の側から伝えた上でスタートできれば理想。
★児童に自由に議論させれば良いが、明らかに議論が滞っている場合は、フォローが必要かと思う。
★大人の立場からすれば、最初に第1希望の人を募って割当て、順次第2希望、第3希望で割り当てるという方法が思い浮かぶと思うが、それが絶対的な正解ではない。児童の自由な発想に委ねてみたい。

★ルールだけではなく、どんなアイデアが出たのか、またグループの中でどのような話し合いをしたのかを発表してもらう。
★採用されなかったアイデアの何がいけないと生徒が考えたのかが重要。それが、展開(1)を踏まえられていたなら、児童自ら、理想的なルールの決め方を身につけたと言っても良い。そのような内容の発表がなされた場合には、大いに誉めてあげたい。
まとめ
【5分】
○法とは何か



○話し合いやルールを決めるときに気をつけること(まとめ)
★人数が多くなって、話し合いで決めることができなくなれば、ルールを決めることで解決することができる。「法」というのは、そのためにあるのだということを説明したい。
★展開(1)の最後に指摘したのと同様、今後、話し合いをしたり、ルールを決めるときに、「平等にチャンスが与えられているか」を意識してほしい。

ver. 2026.07.20